『折句 – 言葉の遊戯 Akrostichon-Wortspiel』陳銀淑

ルイス・キャロルの『鏡の国のアリス』とミヒャエル・エンデの『はてしない物語』から選ばれた7のシーンで構成されたソプラノとアンサンブルの為の作品『折句 – 言葉の遊戯 Akrostichon-Wortspiel』(1991/93)。この作品を初めて聴いた時、溢れだすファンタジックなイマジネーションと繊細で独特な響きに魅了され何度も繰り返し聴いた。

スコアを見ると「メルヘンからの7つのシーン」という副題が付いているが、7つのシーンはそれぞれ、1「隠れんぼう」2「3つの不思議な門の謎」3「ゲームのルール – るぼのかさを時」4「五詩節の中の四季」5「ドミファレS」6「任意ゲーム」7「古い時代から」となり、各曲の長さは、短いものは1分30秒位から長いものでも3分30秒位と短い。1991年の初演時はまだ未完成だった(1993年に完成される)というように、新しい響きへの試行錯誤からも、どうしても息の長い作品に仕上げるのは難しいのかもしれない。その点においては、シェーンベルグ『月に憑かれたピエロ』やブーレーズ『ル・マルトー・サン・メートル(主なき杖)』も同様だ。チン・ウンスク氏のインタビューなどを読んでいると、ドイツに渡った当時、オリジナリティを見出すために、しばらく作曲が出来なかったようなことを話している。しかし彼女は、多くの東洋出身の作曲家が東洋にオリジナリティを見出す中で、安易にそこにアイデンティティを見出さずにオリジナリティを見いだしていった。そして、チン・ウンスクのここでの挑戦は、オペラ『不思議の国のアリス』(2007年6月30日初演)で完成を見せる。

この独特な響きはどうやって?と思いスコアを見てみる。使用されている楽器は、フルート、オーボエ、クラリネット、マンドリン、ハープ、ピアノ、パーカッション、バイオリン、ビオラ、コントラバス、そしてソプラノ。マンドリンというところがちょっと面白いように思う。独特のファンタジックな雰囲気を醸し出すのはこのせいだろうか?そして、もう一つの面白い点が、スコアの「Fl.in G」「Kla.in B」等の横にある「↑」だ。楽器の調律を1/4音上げろという指示だが、アルトフルート、クラリネット、ハープ、バイオリン、コントラバス、に表記されている。(フルートとクラリネットは、曲によって、アルトフルート、バスクラリネットに持ち替えるが、そちらは通常の調律になっている。)これが、繊細で独創的、どこかナンセンスでファンタジックな響きを醸し出す秘密の一つだろうか?

この作品の作曲者は、陳銀淑(チン・ウンスク、Unsuk Chin)(1961-)というドイツ在住で大韓民国出身の女性作曲家だ。ベルリン・フィルハーモニーで作品が演奏されるなど、現在、ヨーロッパでも屈指の現代音楽の作曲家で、韓国では姜碩煕(カン・スキ、Sukhi Kang)に、ドイツに渡り、現代音楽の巨匠、ジョルジ・リゲティに師事した。これまで多くの作曲コンクールに入賞し、この作品も当時現代音楽の作曲家の登龍門であった、ガウデアムス国際音楽週間の作曲賞の受賞者演奏会で初演された。

Alize Rozsnyai(Soprano),Curtis 20/21 Ensemble

『折句 – 言葉の遊戯 Akrostichon-Wortspiel』スコア『折句 – 言葉の遊戯 Akrostichon-Wortspiel』スコア

オペラ『不思議の国のアリス』オペラ『不思議の国のアリス』(出典:http://www.standard.co.uk

Akrostichon-Wortspiel『折句 – 言葉の遊戯 Akrostichon-Wortspiel』CD