『ル・マルトー・サン・メートル( 主なき槌)』ピエール・ブーレーズ

2016年1月5日、フランスの作曲家で指揮者であるピエール・ブーレーズ(Pierre Boulez、1925ー2016)が他界した。ブーレーズといえば、ルイジ・ノーノ、カールハインツ・シュトックハウゼンらと共に、20世紀、第二次大戦後の現代音楽を代表する作曲家として、また、近年は、クラシック音楽ファンであれば誰もが知っている指揮者出会った。そして、卓越した分析、「オペラ座を破壊せよ」といった、時に過激な発言による評論活動や、教育者として多くの若い才能ある音楽家にチャンスを与え、新しい音楽を探求し創作する場としてIRCAM(フランス国立音響音楽研究所)やアンサンブル・アンテルコンタンポランの創設を主導する政治力も合わせ持つなど、作曲家に収まらない卓越した才能を持って、新しい音楽の創作の場を牽引し続けた音楽家であった。

『ル・マルトー・サン・メートル( 主なき槌)』は、1953年から1955年にかけて作曲された、20世紀のいわゆる「現代音楽」を代表する作品だ。6人の奏者(アルト・フルート、シロリンバ、ヴィブラフォン、打楽器、ギター、ヴィオラ、声(アルト))による、9つの楽章から成る、演奏時間は約40分の作品。フランスの詩人ルネ・シャール(1907-1988)の、シュルレアリスム時代の詩がテキストに使われている。

1995年に東京で『ピエール・ブーレーズ・フェスティバル in Tokyo』。ピエール・ブーレーズはもちろん、マウリツィオ・ポリーニ、ジェシー・ノーマン、ギドン・クレーメル、ダニエル・バレンボイム、ピエール=ロラン・エマール、アンサンブル・アンテルコンタンポラン、ロンドン交響楽団・・・、蒼々たるメンバーが来日し、2週間にも及ぶフェスティバルが開催された。この『ル・マルトー・サン・メートル( 主なき槌)』も、ピエール・ブーレーズの指揮とアンサンブル・アンテル・コンタンポランのメンバーによる演奏で紀尾井ホールで上演され、ぼくも演奏会に足を運んだ。演奏者の息づかいまでも伝わってくる、最前列のしかも指揮台に立つブーレーズの足元の席。演奏が始まるや、その明瞭な音色と音楽の推進力に驚いた。そして、なんていったら良いのだろうか、まさに全身を包み込んだ『グルーブ』感!この日までCDでこの作品を聴いてきた時には、どうしても「現代音楽」という先入観からか頭で聴いてしまっていたためか、気がつくことができなかったが、この日の『ル・マルトー・サン・メートル( 主なき槌)』は、ドビュッシーの音楽の如く身体に染み込んできたのだ。

『ピエール・ブーレーズ・フェスティバル in Tokyo』を主催したKAJIMOTOによると、ブーレーズは「現代作品の演奏会が集客面でうまくいかないのは、奏者が音楽を本当の意味で自分のものにしていないから。現代音楽こそ説得力のある演奏をしないと、聴衆を魅了することができない。」と話していたそうだが、まさにその言葉通りの演奏だった。

『ル・マルトー・サン・メートル( 主なき槌)』スコア『ル・マルトー・サン・メートル( 主なき槌)』スコア

1995年『ピエール・ブーレーズ・フェスティバル in Tokyo』カタログ1995年『ピエール・ブーレーズ・フェスティバル in Tokyo』カタログ

CD『ル・マルトー・サン・メートル( 主なき槌)』CD『ル・マルトー・サン・メートル( 主なき槌)』